『しんがり 山一證券 最後の12人』を読みました。本書は、山一證券が自主廃業に追い込まれた後、社員たちが我先にと再就職していく中で、最後まで会社に残り経営破綻の原因究明と顧客への精算業務に関わった方たちを描いた、清武英利さんによるノンフィクションです。
鮒谷周史さんのセミナーでご紹介を頂いたのですが、非常に面白く読めました、本当におすすめです!以前に読んだ、大和銀行の巨額損失事件を描いた井口俊英さんの『告白』と同じく、本作品も金融犯罪から崩壊していく会社が舞台となっています。『告白』が非常にネガティブで重苦しい空気感をもっているのに対し、本作品は突然の倒産という絶望的な状況の中でも自分個人の利益を二の次にして正義を貫こうと懸命に戦った人達の姿が爽やかに描かれています。タイトルの『しんがり』とは負け戦の際に最後列で敵を迎え撃ち、味方の本体を可能な限り逃がすような役割をもつ部隊のことで、その『しんがり』を務めたのはそれまで社内で冷遇され続け『場末の連中』と呼ばれた監査部門(業務監理本部)の人たちだったわけです。
さて、本書を読んで自分はどう感じたのか。彼らを突き動かしたものは武士道でいう『義』であったと思われます。どう考えても一銭の得にもならない、むしろ無給で働いた方もいたわけで損得勘定で考えれば絶対にマイナスです。しかも廃業は決まっている事実であり、不正の原因が究明できたところで会社や雇用が復活することはありません。しかしそんな中でも、彼らを動かしたのは(一部の役員や社員が主導した)不正を明るみにすることで、その他大勢の誠実な山一の社員の名誉を取り戻したいという彼らの『義』だったのだと思います。
そして監査部門であった彼らは会社の中で冷遇されていたにもかかわらず自己を犠牲にしてまで最後の仕事をやり遂げました。それは彼らの中の監査部門としてのプライドがそうさせたのかもしれません。人はその独自の役割を期待された時には、それに応えたいと思うことはあると思います。彼らの中にある『勇』すなわち『義を見てせざるは勇なきなり』という面も感じました。さらにそこには、このチームのリーダーに皆を義へ向かわせる何かがあったのだと思います。それはリーダーの私心なき姿であり、自らをもっとも犠牲にして前に進むリーダーの背中に皆はついていったのだと思います。
さて読書感想文 (笑) はこれくらいにして、重要なのは、同じような場面に置かれた時に自分がどう行動したいか、また実際にどう行動できるかです。自分の会社が倒産した時、自身の再就職も二の次にして無給で会社や仲間の正義のために自分は働けるでしょうか。うーん、正直、分かりません。各人の正義があり、再就職しなければいけない正義もあり、また残ってしんがりを務める正義の両方を理解できます。ただ自分としは義のために行動したいと思っていることは事実です(出来るかどうかは別として)。少なくとも、義に反しない行動はとりたいと思っています。
本書では、不正を行ったのは上司からの指示であり『会社のためだ』という言い訳に対して、結局は『本人の出世欲や保身のためだろ!』と切り捨てる場面があります。これはまさにその通りであり、自分としても心に刻みつけておきたいと思います。(しんがりを務めることが出来るかどうかは別として)自分としては法令や職業倫理に対して問題だと思うことは、どんな小さなことであっても不正は行わないということを絶対的な指針として持っておきたいと思います。長くなったので続きはまた今度に。